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大阪高等裁判所 昭和58年(ネ)1753号 判決 1985年10月22日

控訴人(原告)

井上清

被控訴人(被告)

竹本滋

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人らは各自控訴人に対し金三四〇万三五七五円及びこれに対する昭和五四年一月二九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを一〇分しその一を被控訴人らの負担とし、その余を控訴人の負担とする。

この判決第二項は仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求める裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人らは各自控訴人に対し金二〇〇〇万円及びこれに対する昭和五四年一月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決並びに(二)につき仮執行の宣言。

2  被控訴人ら

(一)  本件控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は控訴人の負担とする。

との判決

二  主張及び証拠

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加、訂正するほかは原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。

1  原判決四枚目裏九行目末尾に続いて「なお、その後控訴人の後遺障害が悪化し、昭和五九年一〇月二二日付で後遺障害一級に認定された。」を加える。

2  同一〇行目から八枚目表末行目までを次のとおり改める。

(二) 療養費

(1)  入院費等 五万二七〇〇円

控訴人は、前記治療期間中の治療費として、五万二七〇〇円を要した。

(2)  入院雑費 一三万四〇〇〇円

控訴人は、一三四日間の入院期間中、一日当り一〇〇〇円、計一三万四〇〇〇円の入院雑費を要した。

(3)  付添費用 一九四七万一九二〇円

控訴人は脳挫傷のため、将来にわたつて付添看護を要するところ、昭和五四年一月二九日から昭和六〇年四月二八日まで(六年三か月)は一日三〇〇〇円、同月二九日からは平均余命年数の一六年間一日当り三〇〇〇円の付添費用を要する(なお、昭和六〇年四月二九日以後の分については年別ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除した額を請求する、)。

(算式)

<1> 3000円×2280=684万円

<2> 3000円×365×11.536=1263万1920円

(三) 得べかりし利益

(1)  休業損害 一一一四万九〇四七円

控訴人は、本件事故当時、株式会社協和銀行尼崎支店に嘱託として勤務していたものであるが、前記事故日から昭和五八年一月二一日(症状固定日)までの治療期間中全く就労できなかつた。

したがつて、控訴人は次のとおり得べかりし利益を失つた。

昭和五四年一月三〇日から同年末日までの分、二六五万六七〇一円(2,881,000円×336/365)

昭和五五年分、二九八万八〇〇〇円

昭和五六年分、三〇五万六〇〇〇円

昭和五七年分 協和銀行での再雇用期間が昭和五六年一二月末日終了したので、昭和五六年賃金センサスを基準にした三六五万八九〇〇円(1か月239,600円×12+783,700円)

昭和五八年一月一日から同月二一日までの分二一万〇五一二円(3,658,900円×21/365)

再雇用終了による退職金 四七万七四七〇円

合計一三〇四万七五八三円

なお、控訴人が協和銀行から給与、退職金として支払われた一八九万八五三六円を控除すると休養損害は一一一四万九〇四七円となる。

(2)  後遺症による逸失利益 二四一〇万八四九二円

控訴人は、本件事故に遭わなければ症状固定日(昭和五八年一月二一日、六一歳)から就労可能な八年間にわたり、昭和五六年度賃金センサスによる年平均三六五万八九〇〇円の収入を得べかりしものであつたところ、前記後遺症によつて、昭和五八年一月二一日から八年間にわたり一〇〇パーセントの割合で労働能力を喪失したので、控訴人の後遺症による逸失利益を年別ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して症状固定時の時価を求めると、二四一〇万八四九二円となる。

(算式)

3,658,900円×6.589=24,108,492円

(四) 慰藉料

(1)  入通院慰藉料 三〇〇万円

控訴人は、前記のような生死をさまよう重傷を負い、その治療期間も長期にわたつたが、その慰藉料額は三〇〇万円を下らない。

(2)  後遺症慰藉料 一八〇〇万円

控訴人は、前記後遺症により、人間としてのすべての機能を喪失したと殆ど同様の状態に陥つた。しかも、控訴人の一人娘は婚約中であつたが、本件事故で重傷を負つた控訴人を放置できず、結婚を断念して看護に従事せざるをえなくなつたし、控訴人の妻も高齢で、一人で控訴人の看護をするのが身体的に困難となつた。このような控訴人及びその家族の苦痛は計り知れず、悲惨な精神的損害を被つたものというべきである。

また、被控訴人らは今日に至るまで控訴人に対し治療費等の弁償を全くしていない。

以上の諸事情を考慮すると、控訴人の後遺症による精神的損害を慰藉するには、一八〇〇万円が相当である。

(五) 弁護士費用 三〇〇万円

(六) 損害の填補 一二五三万七五〇〇円

控訴人は、本件事故に関し、自賠責保険から、後遺障害補償として一一七九万円、右以外の保険金として七四万七五〇〇円を受領したので、後遺障害補償については後遺障害損害金、その余の保険金はその余の損害金として充当する。

4  よつて、控訴人は、本件損害賠償として、被控訴人ら各自に対し、右3の(二)ないし(五)の損害金合計七八九一万六一五九円のうち二〇〇〇万円及びこれに対する本件事故の日である昭和五四年一月二九日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

3  同一〇枚目裏一行目末尾に続いて「本件は被控訴人竹本に制限速度を二五キロメートル超過した速度違反があるうえ、夜間降雨時に発生したもので、同人の過失は通常の場合よりも大きいものである。したがつて、控訴人の過失は仮にあつたとしても、その割合は三〇パーセント以内であるが、同控訴人に不利益に評価しても五〇パーセントを上廻ることはないことが明らかである。」を加える。

4  同一〇枚目裏三行目の次に「なお、自賠責から受領した金四〇万五四一〇円が請求外治療費等で本訴請求外であるから、損害賠償金として控除する理由がない。」を加える。

5  当審における証拠関係

当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  事故の発生、責任原因についての当裁判所の判断は、次に付加、訂正するほかは原判決の当該部分の理由説示(原判決一二枚目表二行目から同一六枚目表二行目まで)と同じであるから、これを引用する。

原判決一二枚目表六行目の「二〇、」の次に「当審証人小林末義の証言」を加え、同一三枚目裏四行目の「停止」を「とつさにブレーキを踏むとともにハンドルを左に切つて北側の道に突込んで停止する」と改め、同一四枚目表一行目の「国道二号線の道幅もさほど広くないので、」を削り、同枚目裏一〇行目「二〇、」の次に「当審証人小林末義の証言」を加える。

二  そこで、損害について判断する。

1  受傷、治療経過等についての当裁判所の判断は、次に付加、訂正するほかは原判決の当該部分の理由説示(原判決一六枚目表三行目から同一八枚目裏九行目まで)と同じであるから、これを引用する。

原判決一六枚目裏四行目の「第九号証、」を削除し、同七行目の「甲」の次に「第九号証、」を加え、同七、八行目の「前記」を「証人笹生幹夫の証言により真正に成立したものと認められる」と改め、同一八枚目裏九行目末尾に続いて「なお、控訴人は、後遺障害一級に認定されたと主張し、成立に争いのない甲第二四号証(診断書)には、控訴人の障害の程度が身体障害者福祉法施行規則別表第五号(第一級)に該当する旨の記載があるけれども、弁論の全趣旨によつて成立を認めうる甲第二八号証の一によると、右診断書は、身障手帳申請のため訪れた控訴人に対し、それまでの経過を把握しないまま作成したもので、当時既に症状固定していたというのであり、これによつても控訴人の主張を認めることはできない。」を加える。

2  療養費

(一)  入院費等 三万六七〇〇円

成立に争いのない甲第三ないし第五号証の各二、によると、控訴人は本件事故に基づき、控訴人主張の入通院期間中、入通院治療費として三万六七〇〇円の損害を受けたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  入院雑費 一三万二〇九三円

前に認定したとおり、控訴人は本件事故により、計一三四日間入院したものであるところ、その期間中、経験則上一日につき少なくとも一〇〇〇円の入院雑費を要したものと認められる。そこで、昭和五四年一月二九日から同年六月一日までの分につきホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して本件事故当時の現価を算出すれば一二万二六八二円となり(月別係数四・〇八九四、中間に二月が入るため一ケ月三〇日計算による)、又昭和五五年四月一〇日から同月一九日までの分につきホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して本件事故当時の現価を算出すれば九、四一一円となるから控訴人は入院雑費として一三万二〇九三円の損害を受けたこととなる。

(三)  付添費用 八九〇万六三二五円

(1) 入院期間中の分

証人笹生幹夫、同井上美代子の各証言によると、控訴人は前記認定の入院期間中付添看護を要したことが認められ、その間経験則上一日につき少くとも三〇〇〇円の付添費用を要したことが認められる。そこで前示入院雑費と同様の方法で本件事故当時の現価を算出すれば、昭和五四年一月二九日から同年四月九日までの分が三六万八〇四六円、昭和五五年四月一〇日から同月一九日までの分が二万八二三四円となり、控訴人は入院期間中の付添費として三九万六二八〇円の損害を受けたこととなる。

(2) 通院期間中及び将来の分

成立に争いのない甲第八号証の一、第二二号証、第二四号証、前掲甲第八号証の二、第二八号証の一、証人笹生幹夫、同井上美代子の各証言、前示後遺障害の内容、程度を併せ考えると控訴人は、本件事故による受傷によつて前示認定の通院期間中(昭和五四年六月二日から同五五年四月九日まで及び同月二〇日から同年一一月一〇日まで)自宅での付添看護を要したこと、又前示後遺障害のため症状が固定した昭和五五年一一月一〇日以後少なくとも一五年間にわたつて付添看護を要するものと認められ、経験則上右期間中の付添費用は一日につき二〇〇〇円とするのが相当である。そこでホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して本件事故当時の現価を算出すれば、昭和五四年六月二日から昭和五五年四月九日までの分が六一万〇九六〇円(月別係数九・八五四二)、同月二〇日から同年一一月一〇日までの分が三八万四三一九円(月別係数六・一九八七)、同月一一日以後一五年間の分が七五一万四七六六円(年別係数一〇・二九四二)となり、控訴人は右付添費として八五一万〇〇四五円の損害を受けたこととなる。

3  得べかりし利益

(一)  休業損害 二九二万七一三二円

成立に争いのない甲第一〇号証の一、同号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第一〇号証の二、証人井上美代子の証言を総合すると、控訴人は、本件事故当時、株式会社協和銀行尼崎支店に嘱託として勤務し、本件事故に遭わなければ昭和五六年一二月一四日に六〇歳となつて定年退職するまで勤務するはずであつたところ、本件事故による受傷のため、休業せざるをえなくなり、昭和五四年一二月一四日退職を余儀なくされ、したがつて、本件事故により、同年一月三〇日から症状固定日である昭和五五年一一月一〇日まで六五一日間休業したこと、控訴人は、本件事故に遭わず右退職もしなかつたとすれば、昭和五四年一月一日から同年一二月三一日までの一年間に二八八万六〇〇〇円、昭和五五年一月一日から同年一二月三一日までの一年間に二九八万八〇〇〇円、昭和五六年一月一日から同年一二月三一日までの一年間に三〇五万六〇〇〇円、また定年退職時には退職金として四七万七四七〇円の各収入を得られたであろうことがそれぞれ認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

他方、成立に争いのない乙第三号証の一、二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第一六号証の一、二によると、株式会社協和銀行尼崎支店は、控訴人に対し、本件事故の日から昭和五四年一二月までの間、給与及び賞与として一八一万七四六〇円を、また退職時に退職金として八万一一三〇円を支払つた事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

そこで、右休業期間中の給与等の休業損害につきホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して本件事故当時の現価を算出すれば次のとおり二九二万七一三二円となる。

(算式)

(1) 昭和五四年一月三〇日から同年一二月三一日までの休業損害

2,886,000円×336/365-1,817,406円=839,295円

839,295円×0.956=802,366円

(2) 昭和五五年一月一日から同年一一月一〇日までの休業損害

2,988,000円×0.7111=2,124,766円

(二) 後遺症による逸失利益 一四七七万四〇一二円

右(一)(休業損害)で認定したとおり、控訴人の得べかりし収入は昭和五五年一月一日から同年一二月三一日までの一年間に二九八万八〇〇〇円、昭和五六年一月一日から同年一二月三一日までの一年間に三〇五万六〇〇〇円であることが認められ、前示認定の後遺症の内容、程度その他諸般の事情を考慮すると、控訴人は、右後遺症のため、昭和五五年一一月一〇日から少くとも一〇年間にわたり、その労働能力を少くとも七九パーセント喪失したものと認めるのが相当であるから、控訴人の右後遺症に基づく逸失利益を、右認定の各年度の収入額を基準にして(ただし、控訴人が本件事故に遭わなかつたとした場合の退職予定日の翌日である昭和五六年一二月一五日以後は、経験則上、少くとも同年の年収額の八割に当る二四四万四八〇〇円の年収を得られたものと認める。)、ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して本件事故当時の現価を算出すると次のとおり一四七七万四〇一二円となる。

(算式)

(1) 昭和五五年一一月一一日から同年一二月三一日までの分

2,988,000円×0.79×0.1245=293,884円

(2) 昭和五六年一月一日から同年一二月一四日(本件事故がなかつたとした場合の退職予定日)までの分

3,056,000円×0.79×0.8298=2,003,336円

(3) 昭和五六年一二月一五日から昭和六五年一一月九日までの分

3,056,000円×0.8×0.79×6.46=12,476,792円

(三) 退職金差額分 三三万九九五二円

前示のとおり、控訴人は、六〇歳の定年退職時まで勤務すれば四七万七四七〇円の退職金の支給を受けられるはずであつたところ、本件事故により昭和五四年一二月一四日退職を余儀なくされ同日金八万一一三〇円の退職金の支給を受けたにすぎない。そこで右各金額をもとに年五分の割合による中間利息を控除して本件事故当時における現価の差額を算出すれば三三万九九五二円となる。

4  慰藉料 一三〇〇万円

本件事故の態様、控訴人が受けた傷害の部位、程度、治療経過、後遺症の内容、程度、家庭状況その他諸般の事情を併せ考えると、本件事故によつて控訴人が被つた精神的苦痛を慰藉するには、一三〇〇万円の慰藉料を認めるのが相当であると認められる。

5  損害額小計

右2ないし4で認定した各損害費目を合計すると、四〇一一万六二一四円となる。

6  弁護士費用 三〇万円

前記認定の事実によると、控訴人は弁護士に本件訴訟の遂行を委任したことは弁論の全趣旨により明らかであるところ、本件訴訟の経過を考慮すると、金三〇万円が本件事故と相当因果関係がある損害と認めるべきである。

四  過失相殺について

本件事故の発生について認定した事実(原判決一二枚目表二行目から一四枚目裏一二行目)によると、控訴人は、自転車を運転して本件交差点に差しかかつた際、対面の北側信号機が黄色を表示しているのを見たのであるから、右表示に従つて右交差点の横断を開始してはならない。しかるに、控訴人は右注意義務を怠り、片手で傘をさしたままの姿勢で漫然自転車を運転して右交差点に進入し、横断進行したところ本件事故に遭遇したものと認められるから、本件事故の発生については、控訴人にも、対面信号機の黄色の表示に従つて横断を開始してはならない注意義務を怠り、漫然、自転車を運転して本件交差点を横断した過失があるといわなければならない。そして、控訴人の右過失に、前示認定の被控訴人竹本の過失の内容、程度、双方の車種の違い、本件事故の態様その他諸般の事情を併せ考えると、過失相殺として控訴人の損害額の六割を減ずるのが相当であると認められる。

そして、過失相殺の対象となる損害額は、前記三の5認定の損害額四〇一一万六二一四円であるとするのが相当であるから、これから六割を減じて損害額を算出すると一六〇四万六四八五円となる。

五  損害の填補について

請求の原因3の(六)(損害の填補)記載の事実(原判決八枚目表一行目から六行目)は、当事者間に争いがない。

また、前記乙第二号証の五、八によると、右のほか被控訴会社は自賠責保険から加害者請求として四〇万五四一〇円の支払を受けた事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はないから、控訴人が被控訴会社から本件事故に基づく損害の填補として四〇万五四一〇円の支払を受けた事実が推認できる。

したがつて、控訴人は本件事故に基づく損害の填補として、計一二九四万二九一〇円の支払を受けた事実が認められる。

六  そうすると、控訴人が本件事故の損害として被控訴人ら各自に対し支払いを求めうるのは、前記三6、四認定の損害額合計一六三四万六四八五円から右一二九四万二九一〇円を控除した三四〇万三五七五円及びこれに対する本件事故の日である昭和五四年一月二九日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金であり、これを超える賠償の請求は理由がない。

七  以上の次第で、控訴人の被控訴人らに対する本訴請求は、右の限度で理由があるから認容し、その余は棄却すべきであるので、これと異なる原判決を右のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 首藤武兵 寺崎次郎 井筒宏成)

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